2010年8月3日火曜日

尊厳

2010年7月25日発行の中央大学学員時報に、「中国の広告とインターネットの実態」という本が宣伝されていた。恩師が書いた本ということで見てみたくなり、衝動買いしてしまった。

「私」を「わたし」と表現したり、「です・ます調」の中に「だ・である調」を混在させたり、何だかわざとすっとぼけた感じの「まえがき」を読んで、別人が書いているのか別人に成りすましているのか、と思わず目を疑ってしまった。もう定年退職しても良いくらいのお婆さん先生だし、とやかく言うのも迷惑かと思うんだけれど。論文の内容にも校正不足と思われる脱字や「です・ます調」と「だ・である調」の混在が見られ。こちらの「最後に一言」にあるように、「今ひとつ統一感に欠けた構成となっている」のは、林惠玉先生の論文をそのまま載せているだけだからで、統一感に欠く研究内容を一冊にまとめようと頑張ったところにそもそもの問題があったのかも知れない。その突拍子の無さというか手抜き加減と言うか、適当なところが中央大学らしいと思ったreechoである。
衝動買いということで、はてな経由での購入の1人は紛れも無くこの私である。安い中古商品がまだ出回っておらず、送料を含めたら新品をAmazonで買うのが経済的かと思われ。佐川急便のメール便で注文日からたった2日で到着。大学時代を思い出して思わず笑ってしまう一冊だった。多分、このSIMPLETONさんの「臨時読後感」を読んでいなかったら衝動買いにまで至らなかったと思われ、SIMPLETONさんの素敵な文章にひたすら感謝。屈曲した精神構造を全く感じさせないSIMPLETONさんの謙虚さは、最高学府を出ていないと無理っぽい気品あふれるもので。reechoも下品な文章ばかり書いていないでこの様に上品な文章を見習いたいと思った。

在学中は、とりあえず授業でお世話になった先生の書いている本や論文は極力全てに目を通すことにしていた。別にそれで教員の性格が分かるものでも無かったけれど、研究の傾向を知っておけば、その教員独自のアプローチの仕方や、主義主張とか偏見なんかも見られるんじゃないかと思ったもので。より興味深く授業を受けられるということもあるし、嫌な授業を受ける際には、その独特な主義主張を批判的に傍観すれば良いわけで。林先生の論文は、当時の中央大学図書館にはまだ台湾のラジオ放送に関する論文くらいしか無かったように思ったけれど、歯切れが良くて勇ましくて、男性的な凛々しさを感じさせる論文だなぁ~と思ったのを覚えている。つまり、論文ではこの本の「まえがき」の様にしおらしく無いのである。
授業では、飴を配ることで有名だった。不二家のミルクキャンディーとかそんな類の甘いお菓子を授業中に生徒に1個或いは2個ずつ配るのである。単位が取り易いことでも有名だった。優しいと言う噂を聞いていたので、reechoは丁度経済学部で2004年度から可能になった第3外国語の履修で、林先生のお世話になった。外国語基礎科目における授業の自由な選択は、第3外国語でもない限り出来なかった。「まえがき」に登場する斎藤道彦先生は厳しいことで知られていて、斎藤先生の上級中国語では、授業で毎回中国語の新聞(白文の長文)を一人ずつ音読させ、つっかえたり発音を間違えると単位が取れないと噂されていた。反対に林先生は極めて易しく、どんなに出来ない生徒でも単位が取れる様、難しい問題は一切出さず、reechoが大学4年で履修した上級中国語の授業では、「調味料の宣伝を中国語でしてください」とか。辞書を使うのも自由。黒板に平たい箱を書いて「これが調味料です」とか言っている。きっと当時、先生は丁度中国での日本車とかペンキの広告についての論文を書き終えたばかりだったに違いない。些細なことで傷付くナイーブな中国人を尻目に、当時の授業を思い出しながら楽しく拝読した。

気になったのが第二章の最後。

 最後に「尊厳」と「尊敬」について,一言述べておこう。「尊敬」という感情は,他者に要求して得られるものではない。みずからの言動の高さが尊敬に値すると他者から認められた時,他者から与えられるものである。他者に対して自己の「民族の尊厳」を大切にするよう要求する人が痰でも吐き散らすように他民族を「チビ日本人」「劣等民族」,「犬」,「豚」と罵り散らし,自分の「尊厳」だけを要求して他者の「尊厳」などどうでもいいと考えるような自己中心的な主張を続けていれば,これが「中国文化」の地金なのだと思われても仕方あるまい。他者から「侮辱」されているという感覚には「侮辱」過敏症とでもいうような精神構造の歪みが認められるが,これは国際社会では滑稽と見られ,中国人と中国文化の名誉をみずから引き下げる効果しかないことを憂慮せざるを得ない。

らしい。何かにつけて他民族を侮辱すると見られている日本人が不憫なのだが。中国人や韓国人が日本人を侮辱しても、のんきな日本人は中国人or韓国人みたいに烈火の様に怒らないし。差別されたり侮辱された経験が少ないから、或いは自信があるからへらへらしていられるだけなのかも知れないけれど。侮辱に対して過敏になる程に屈辱や劣等感を強く感じられるようになれば、自分が傷付かない様、相手に自己を尊重させる様、劣悪で非道な手段を用いてでも自分に頭を下げさせようと頑張るんじゃないかとも思うけれど。歪むなと言っても、既に歪み切った滑稽な精神構造を、誰もどうすることも出来ないのではないか、と。

中国の偏った愛国心と情報統制に着目した内容で、保身の為に中国がどこまで我侭を押し通すつもりなのかと読者を心配にさせる。さすが元秘密結社系の独立運動家だけあって、綱渡りのようなスリリングな論調と正義感に満ちた中国バッシングが見物である。中国を叩いてすっきりしたい人には是非ご一読をお勧めしたい。

3 件のコメント:

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  2. SIMPLETONことTaroと申します。大変遅くなってしまいましたが、拙Diaryを読んで下さり(また望外なるお言葉を頂戴もしまして)有難うございます。
    林さんとは、某大学で小生が研究発表に参加した後の懇親会で林さんの著書を頂戴したのがご縁で綴らせていただきました。
    Reechoさんが引用されてます「尊厳」と「尊敬」については、林さんが台湾人であるという点を意識して話されていたことを思い出しました。林さんの授業でのエピソードは大変興味深く、なるほどそういうことをする方だなあと納得しました。
    私は中国事情等に疎いものですので、Reechoさんのblogを読んで勉強したいと思ってます。
    有難うございました。

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  3. 投稿を見つけるのが遅れてしまって申し訳ございません。林先生は日本人になって久しく、日本人としての視点もかなり多くなっていると思われますが、やはり台湾人として背負って来た歴史は重いと感じます。SIMPLETONさんの記事が無ければ林先生の本を買うことも無かった筈で、本当に貴重な記事を書いて下さいましたことに感謝申し上げます。また何かございましたらliyiyi@hotmail.co.jpまでメールを頂けましたら幸いです。コメントの場合にはスパムに分類されてしまう恐れがありますのでどうか宜しくお願い申し上げます。

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